んを中心に活々《いきいき》と軸がまわっていて、又別な楽しさ、安らかさです。
 今度来て本当によかった。
 お医者も特別に誰というお好みはありません。しかし、お父さんは昼間お眠りになりすぎます。これは、やはり全体の御衰弱ですから、余り油断はならないと思います。あなたの方はずっとおよろしい方ですか? 食慾も出て居りますか。どうか、どうか、お大切に。ここにいると何だか遠いようです。私はこちらですっかり疲れをなおします。では又

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[自注10]お后《ゴー》――顕治の故郷の地方では、おくさん、おかみさんをお后《ごう》はんとよぶ。
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 三月二十九日(消印) 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 厳島より(安芸の宮島廻廊より千畳閣を望む絵はがき)〕

 ここは大変に明るい美しいところでびっくりしました。清盛という人物が只ものでなかったのがよくわかります。よい天気。お母さんと、砂と松の間をふらりふらりと歩いて、よい散歩です。あなたもここは御存じでしょう?

 三月三十一日午後 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 山口県島田より(封書)〕

 三月三十一日  ひる少し前 曇天。
 
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