、べのようなものもお目にかけます。何卒《なにとぞ》幸に御笑殺下さい。

 九月二十八日夜十二時。 〔宮本三郎筆「牛を牽く女」の絵はがき〕
 大変おそく書いて、しかられそうであるけれど、今、きょうの分だけ仕事を終って比較的満足に行って、一寸あなたとお喋りがしたい心持。お茶を一緒にのみたいとき。原稿紙の上に、こまかい例の私の字でごしゃごしゃと(一)[#「(一)」は縦中横](二)[#「(二)」は縦中横]という下に書きこんであって、そこから様々の情景と人々の生活が歴史の中に浮上って来る。何とたのしいでしょう。私は『あらくれ』や、『新女苑』や『婦公』に、新しい署名のものを送って、たっぷりして仕事している。

 十月一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(国枝金三筆「松林」の絵はがき)〕

 十月一日の夜。仕事が熱をもって進んでいる。雨だれの音。鶴さんが工合をわるくして心配しましたが、もうややよろしいらしい。あなたはいかがでしょうか。雨つづきで気分がさっぱりなさらないでしょう。
 この仕事を五日の午《ひる》までに終って、六日はお目にかかりにゆくのを御褒美のようにたのしみにして、せっせとやっている。ミ
前へ 次へ
全235ページ中175ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング