ワす
 わが最愛の良人に。
[#地から5字上げ]ユリ

 九月一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 国府津より(封書)〕

 九月一日 夜十一時半  第二十八信
 林町のテーブルで珍しくこれを書いて居ます。急にバラバラ雨の音がしている。明朝緑郎がフランスへ立ち、咲枝が送りがてら神戸の友達のところへゆく。倉知の俊夫(咲の兄)が召集されて出かけ、従弟の倉知|紀《ただし》が又呼ばれて出かけ、春江の良人河合(咲の義兄)があぶないと云う工合で、この頃の空気がつよく反映しています。
 さて、昨日は疲れていらしたところを却っていけなかったかもしれませんでしたね。口がお乾きになる様子でしたね。しかし、秋になって気候も落付いたら追々きっと調和が保てて来るでしょう。理想的に行かないにしろバランスがとれるようになるであろうと確信して居ります。
 きのうはもう時間がなかったので、けさ予審判事にお会いして、体に関する条のことお話しておきました。それに関する部分だけのこととしての私の理解に立って。
 本とりそろえて最近にお送りします。私は明夕又国府津へ行って六日頃まで居るつもりです。菊池、越智氏のことは島田のお母さんに伺っ
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