A正当な理解をもつ幸福にある。それでね、私はいつどのように、どこで自分の生涯が終るかということは分らないが、最後の挨拶とよろこびを貴方につたえないでしまうということはどうも残念なの。私は、こうして互に生きていること、而して生きたことをこのように有難く思い、よろこび、生れた甲斐あったと思っているのにその歓喜の響をつたえないでしまうのは残念だわ。このようによろこぶ我々の悦びを、何とか表現せずにしまうということは。
 よしんば永い病気で生涯が終るとしても私があなたに会えたことに対する、この限りない満足とよろこびとは変らないであろうし、ボーとなってしまってポヤッと生きなくなってしまうのなんかいやですもの、ねえ。
 ああ、でもこの心持を字であらわすことは大変困難です。体でしかあらわせない。私たちを貫く知慧のよろこび。意志の共力の限りない柔軟さ。横溢して新鮮な燃える感覚。愛の動作は何と単純でしかも無限に雄弁でしょう。互の忘我の中に何と多くの語りつくせぬものが語られるでしょう。
 私と貴方との境の分らなくなったこのよろこびと輝きの中で、私の限りない挨拶をうけて下さい。
 貴方について私は何の心配もし
前へ 次へ
全235ページ中158ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング