ノ吹けでどこへでもスースー行って平気だが、吹かせて上げたいとなると、もう何だか涼しくても切ない、美味くても切ないでね。だから病気のようになる。そして、おお畜生、自分が病気の方が楽だと思って呻《うな》る。
 でも、私は又もう一つ勇気を起して、この切ない心持もちゃんと持って身につけて、平静な明るさをとり戻しますから、どうか御安心下さい。ここに月末までいて、すこし神経を休めたらいいでしょう。よく働いたも働いたし。この次手紙を下さるときどうかユリのこの心持におまじないをして下さい。ユリよよく眠れ。よくうまがって食べろ。楽しめ、笑え。そして俺のこともよく心配しろ、と。
 ほほう、私は大分アンポンの本性を露出していますね。でも、私自分ひとりで、私が元気でいればそれは貴方もよろこんで下さると納得させて居切れないのです。ホレ、しっかりして、とおしりの一つもぶって下さい。
 この間うち一日一枚のエハガキをはじめたのだが、御覧になっていますか? 甚だ心もとなし。ではこれから仕事(『報知』月報)の準備にとりかかります、お大切に、お大切に。

 八月二十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 国府津より(封書)〕

 八
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