ノはあるけれども、きのうはもういいと云っていらしたわね。
 きのう、本はおよみにならないのでしょうとおききしたのは、近頃の流行的作品なるものを少しずつ読んで頂きたいと思っていたからですが、勿論いそがず。
 作品の評価の主観性の要求とはなかなか微妙な錯綜と混乱とを導き出しています。作品に社会性を求める必然は健全ですが、平凡な市民の日常的限界が作品の限界となりやすくそこに又経験主義的な危険がかくされている。婦人作家の昨今の暮しぶりもいろいろに分化して来ているし。では又。お体のことは決してくよくよはしません。でも、非常に本気なの癒そうとして。暑さをお大事に。

 八月十五日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(はがき二枚)〕

 さっき手紙を書いてから東京堂へ出かけて、かねて御注文の図書総目録というのを調べました。あれは栗田書店から出ているので昭和八年版新しいのなしです。昭和八年以前の本を知るのにだけ役立つわけですが、どうしましょう。『出版年鑑』の十二年版はもう御覧になったのでしたろうか六月出版ですが。もし昭和八年以前の分でよかったら総目録をお送りいたしますが。(第一)

 本郷の南江堂へ行っ
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