動車にものれず、餅もたべられず、おとなしい正月をいたしました。盲腸の方も大体障害なく、きのう野上さん[自注1]のところへ行ったら※[#「くさかんむり/意」、第3水準1−91−30]苡仁《ヨクイニン》(何とよむのか忘れてしまった、田舎にも生える数珠子玉《ジュズコダマ》という草の支那産のものの由)という薬を教わって来ました。彌生子さんの盲腸もそれでなおした由。二月の『文芸』に横光の「厨房日記評」を二十枚ほどかき『文芸春秋』の文芸評を今準備中です。文芸懇話会賞の室生犀星は「雑沓」などは題材的に歯に合わず活字面を見ただけでうんざりの由です。横光、小林秀雄、犀星等、芸術上の高邁《こうまい》イストが、現実において一九三七年度には急速に自分達のポーズと反対のものに落下しつつあるところ。日本文学の上に一つの新しい歴史の生れたことを、感じ、興味津々です。一月中旬に白揚社から本が出るのだが、まだ題名がきまらず。何かいいのはないかと考え中です。生活的でうるおいがあって、音楽的色彩的であるようなの。
 いつぞやから、私の家について云っていたのを覚えていらっしゃるかしら。あなたが皆とかたまりすぎて夜更しばかりし
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