らに届くのは正月に入ってからでしょうね。そうすると正月の第一のたよりになるわけですね。新春の挨拶というものには早いけれども、でも今年は、この間のうちの手紙で私が書いていたとおり私たちに歳暮も早く、したがって新年も早く来たような心持です。だから、時間をとび越して、この手紙の中でいろいろと新しい一年に対して予想する感情でいうことは自然です。
 一九三八年という年は、どのような内容で過されるでしょう。時節柄、「天気晴朗なれど」であろうと思われる。私は自分の仕事についてこの間書いたように本年よく勉強したことと、あなたの命がとりとまったらしいこととで、はっきり一つの成熟の感じがしてこの年こそゆっくりと心の満足するような書きぶりでやりたいという希望に満ちていたのです。勿論、それがそうゆけばこれにこしたことはない。でも、そうゆかなかったとして、作家としての生き方の本然性が失われるのではないから、それなら又私らしくいろいろと勤勉に収穫をもってやってゆこうとも考えて居ります。そういう点ではやはり日々是好日たらしめ得るわけです。
 どっちにしろ、あなたが健康の平衡を保っていて下さることは何よりうれしい。何よりの安心。精神上の苦痛というものも様々で、私は世俗的な意味で苦労性ではないのだけれど、苦しいということは、私の場合では自分の体より寧ろそちらの体についての場合につよく感じられます。あなたの着実な健康増進のための努力には、私は全幅の信頼をもっているから、出た結果はどうであろうとも、あなたに対しての私の苦情というものはないわけです。どうか今年は熱を出したくないものですね。
 おかゆの境地を脱したら実に実にしめたものです。こんなにやいやいいう体面上、私も気をつけ最上の健康を気をつけますから御安心下さい。私の盲腸も妙な奴で、曲者です、ただものでない。可笑しいわね。まア、適当にあつかって居ります。
 ところで、どてらお気に入りました? 今、もう押し迫って縫って貰えないので出来ているのを買って背中へだけポンポコ真綿を足したのです。エリは大変柔和でしょう? 顎や頬にやさしく当るでしょう? きっとあなたはもっともっとふくらんだのを欲しくお思いだろうと察しているのですが、どうか辛抱して下さい。あれでも普通よりは厚い分なのですから。
 もう一枚の綿入羽織は一月中旬にしかお送り出来ません。これもあしからず
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