。この娘の顔は原画は非常に清潔な美しさを持っているのですがよく見えませんね。どうか猶々お大切に。今の肉のつき工合はもう一遍ひきしまらなければ本ものではありません、本当にお大事に。
十二月一日(消印) 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(新作帯地陳列会より「頴川陶象綴錦」の絵はがき)〕
光子さんが動坂の絵をかくので一緒に来ました。あのまま木小屋があるしポストがあるし。おいなりさんの赤い旗が昔より大変|賑《にぎ》やかにひるがえっていて通りの広さと云ったら。
この絵はがきの帯はなかなかいいでしょう? しめたいと思う、但し空想の中で。あなたに買っていただいて。エイセンは父の好きな陶工(クラシック)の一人です。国男さんから手袋をお送りいたしました。光子さんの子供は五つ、太郎より兄さんです。
十二月四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(安井曾太郎筆「承徳の喇嘛廟」の絵はがき)〕
十二月四日。安井曾太郎の画集の面白いのを文房堂で見つけましたからお送りいたします。画集中にこの絵の水彩のようなのがある。こっちにまで発展して来ている跡もくらべるとなかなか面白い。きょうは光子さんが油の方をしあげて、二人でその額ぶちを買いにゆきました。可愛い絵です。いずれ写真をお送りいたしますが、思いがけず今年の暮はいいものが出来ました。
十二月五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
十二月五日 日 晴れて風がある。 第四十一信
十一月二十五日づけのお手紙をけさいただきました。お体はずっと調子を保っておりますか。きょうあたりから吹く風がいかにも師走風になりました。綿入れ類ももう届いておりましょう。このお手紙に三つよく読めない字がある。「『科学知識』は時折達治に送っている」のあとにすぐつづいて「のものは矢張りやめにした。」その上の三字がよめない。珍しいことだがよめない。何でしょう。この次お目にかかって伺います。大したことではないらしい。
あなたが、本をよめなかった間に得たものの価値について云ってらっしゃることは、大づかみではあるが私にも推しはかることが出来ないとは思いません。
私の仕事について考え希望して下さること、全く私自身が考え努力していることと等しく、それ故一層はげましとなるのですが、私は箇々の作家のおかれている箇人的な事情、歴史的諸事情がその錯綜推進の間でどのよう
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