ニりとめられなければ一家離散の由。
 あなたがいろいろ親切にたずねて下さるのをよろこんで居ります。島田に対しての呪《のろい》には苦笑しますが。――
 私の手紙は又別に書きます。混同してしまいたくないから。
 お弁当を外からちっとも入れられないと何だか不自由がましたのではないかと心配しがちですが、この間のお話で何だか大変安心しました。案外の便利もあるものですね。
 どうかお大事に。リンゴの液が腸のため体のためによいのを読むので、どうかして汁だけめしあがれないものかしら。噛《か》んでカスを出すというのも不便であるし。何かよい工夫はないでしょうか。では又。いろいろのお喋りを後ほど。

 八月八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 第二十三信 けさは珍しく汗をかかないで目をさましたと思ったら、午後はやはりむして来た。今年は例年になく夕立がありません。私はおお暑いと息苦しく感じる毎に、そこの建物の上へ大きい大きい如露をもって行ってサーサァと思いきり水を注ぎかけてあげたい感じです。
 工合はいかがですか。寝ていらして背中がむれるでしょう。ベッドの上で体を右へまわしておいて、体とベッドの間へ団扇《うちわ》で風を入れて又ねると、ほんのそのときぎりですが案外涼しいものです。右へかえったら又左へかえってという風に折々やると。
 私はこの間、二三日少々ぐったりとしたが、おなかの方はもう大丈夫ですし、仕事もしておりますから御安心下さい。私は暑いと云っても、自分の日常的条件でどうこういう気分は全く持っていないのだから。
 稲ちゃんは前便で書いたとおり保田。栄さんは妹さんが変な男にたかられてこまっているのでそのおっぱらいに小豆島。もし繁治さんが行けるようなら、二人で八月一杯滞在の由です。中野も国。戸台さんも保田。俊子さんは軽井沢。雅子さんは体の工合がわるくて八月一杯休みをとりました。何とか工夫がついたら暑いアパートにかがまっているより、田舎で暮したらよいと思って、保田の方をきき合わせちゅうです。
 島田や野原へお手紙お出しになりましたか。申すまでもないことですが、何か一寸した思いちがいからでも双方が揉《も》めるという状態らしいから、どうぞそのおつもりで(経済的な問題に関して)。この間、富雄さんからの手紙の内容をおつたえしたとき、私としての手紙を別に書きましょうと云ったのは、この頃い
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