す。その折までに出来るのだそうです。これは御覧になれるから大変楽しみです。咲きょうけんそんして「いらない原稿紙があったら下さい」だって。もちろん私はよろこんで、半ペラの新しいのを一綴進呈いたしました。
十二月十七日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
十二月十二日 第二十三信
この手紙では林町の生活のことを主として書きましょう。
事務所は依然八重洲ビルにあり。名称も元のままですが、主体は曾禰氏が主です。ところがこの老博士は今年八十四五歳であり、君子であり品格をもった国宝的建築家でありますが、現実の社会事情からは些か霞《かすみ》の奥に在る。ために国男はじめ所員一同具体的な生活的な面で安心して居られず、という有様です。せちがらさを、この老大家は道徳的見地でだけ批判して居られるのですから。もっとも御自身の経済はせちがらさに動かされないからそうなるのでしょうけれども。
江井のことについて心配して居ましたが、向島の西村(母の実家)の土地が空であったので、そこへ四十室ばかりのアパートが落成し、江井はその管理人兼十何年か後の所有者として生活しはじめました。
車はプリムス
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