す。大変やすくて、閑静でよさそうなところだから。芝のおじいさんたちのゆくところらしい様子です。机をもって本をもってゆきます。早寝をして、散歩をして、母さん役からはなれて、少しのんきになるつもりで。この手紙を御覧になるのは又私がお目にかかってからのことになりますね。どうか呉々もお大切に。安眠なさるよう切望いたします。

 九月十三日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より(はがき)〕

 今日の午後手紙を書いて、夜テーブルの横を見たら一枚私の字の書いてある紙がおっこちている、何だろうと思って見ると、手紙の中の一枚が何のはずみか落ちていたのに心づかなかったのでした。変な手紙をおうけとりになることになるでしょう。その頁で私はあなたのお体のことを主として伺っていたのだのに。――どうぞ右の次第御承知下さい。注意が散漫になっているのではないから。

 九月二十四日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より(鍋井克之筆「榛名湖」の絵はがき)〕

 九月二十四日夕方五時。
 今、『東日』の月評をかき終り「地獄のカマのふたがあいた、あいた」と御機嫌のところです。私は短い時間に、沢山の雑誌をよむこと、つまらない
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