いろの一身上のことについて相談に来る。それをやっぱり加減がよくなくても聞く。そしてそれぞれの意見を云う。――面白いもので、この頃のような時季には、いろんなひとが一身上のことで問題をおこして居ります。仕事を本気にやっているときは勿体ないからね、時間が。――でも勿論疲れるようなことは致しませんから御安心下さい。
 きのうは、思いがけずてっちゃんがやって来てね、夕方まで愉快にいろいろ喋りました。話していたとおり帰ってあけの日に来たのです。お土産に『柿本人麿』という本と、森|杏奴《あんぬ》が書いた『父の思い出』の本をくれました。十七貫だそうです。あのひとらしく楽しそうに正直にいろんな話をして、私も久しぶりで珍しく愉快でした。嫁さんを見つけてくれとたのまれました。私は若い女のひとは沢山知っているけれども、夫婦の生活が複雑微妙であることを知りぬいているので――最もよい場合を知り、わるい場合を目撃しつつあるので――仲人《なこうど》をやることは大役すぎます。寧ろいやね。紹介をしてあげるのがせきの山です。そう話した。そしたら「そりゃそうだね」と高笑いをして居た。嬉しいときの高笑いは本当に高笑いね。勉強の
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