色のレースが張ってあって、細い色リボンの花飾りがついていて、ローマッチをこするザラザラがある。ロココまがいのけちくさいもの。その中から紙片を出して本に貼る。
 ガラスの角ばったペン皿のとなりに置いて。ペン皿には御存知の赤い丸い球のクリーム入れがあって、太郎が二階へ来ると、私はいそいでそれをかくすの。握ったら可愛がってはなさないのです。ところがおばちゃんにしろ、これをどっかへころがされては一大事とばかり、太郎と同じように眼玉をギラギラさせるの。可笑しいでしょう? きょう千田さんから電話、うちの小さい子供が話をするというので私の話、「ああもしもし、きこえる? 私はね、まだあなたにあったことはないけれどね、あなたが生れるときリンゴの煮たのを母さんにあげたことがあるのよ。こんど会いましょうね」
 太郎はまだ後輩故卓上を握ってア、ア、というだけ。
 きのう二百哩ばかりドライヴをした、いろいろの話を書くのが順のようだけれども、きょうはあなたが八月二十二日に書いて下すった手紙が朝食堂のテーブルの上にのっていたので、先ずそのお礼を申します。
[#花飾りで囲まれた「八月三十日の午后」の縦書き手書き文字(
前へ 次へ
全106ページ中52ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング