のを待って居ります。
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[自注18]愛情のこもった遺物――建築家であった百合子の父は一九三五年ごろ、百合子の住む家の設計図をいくとおりも作った。百合子にも住む家ぐらい何とかしてやりたい、と。百合子は、それが実現するとは思わず、またそれを維持してゆく経済条件がないから、家をつくることを希望していなかった。しかし、そのプランのどれにも、父は顕治が使うための室を割りあてていた。いつも、二人が住む家として考えていた。家は、実現しなかった。
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八月二十九日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より(十国峠(1)[#「(1)」は縦中横]、熱海峠(2)[#「(2)」は縦中横]の絵はがき)〕
八月二十九日 土曜日。
きょうはスエ子、緑郎、紀《ただし》(従弟の一人)と江井という顔ぶれで、熱海をまわって十国峠を通り、つい最近出来た強羅公園のドライブウエーを宮の下へ出て夜十時すぎにかえりました。十国峠も強羅も私には初めてで、大変愉快でした。峠の上の濃い霧、すっかり道路が変っている国府津の家の前。〔以下絵はがき(2)[#「(2)」は縦中横]〕などいろいろ大
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