ろの秋の月かなの感ありです。藤村と云えば、私は読書生活中に漱石をよみ直し、いろいろ興味ある発見をして居ります。小説を書いたら、次には漱石、鴎外、藤村の極めて作家的、人間的突こみをやってみたいと虎視タンタンよ。鴎外のロマンチシズム、その中挫、ゲーテ的なものの空想と現実との齟齬《そご》、大変面白いのです。いつになったら書けるか、今、ゴーリキイをやっていて、九月初旬本になり、築地の記念上演と同時に出るでしょう。それから腰を据えて小説を書いて(これは二年間位の仕事[自注11])、それからこの三老人にとりかかるのだから。私はこの間うちの経験で本をよむ術というか、本から必要なところをとって来る術とでもいうかを一層高めたので、三老人相手の仕事もいきいきと今日の生活の面に結びついて出来るつもりで楽しみです。そういうものは、この三、四年間の成長で自覚されて来たものです。こう欲ばりでは本当にアメリカ的事務処理法がますます必要ね。そして精神の永久の若さと休息のために、私は一方でますます子供らしくなってゆきそうです。では今晩はこれで、おやすみなさい。
五日、午後三時。
食堂の湿度計をみると、針はずっと中心
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