こで字下げ終わり]

 二月五日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 上落合より(封書)〕

 第六信。
 二月四日 晴 月曜日
 こんにちは! きのうの雪はいかがでしたか。おとといお目にかかった時は曇ってはいたがこんなに積ろうとは思いもかけませんでした。きょうは朝のうち『文芸』の随筆をかいて送って、それから雪どけの外気を家一ぱいに流しこんで掃除をして、フロをわかして、すっかり独りでやったのでくたびれてしまった。屋根から雪がすべるひどい音が時々しました。もう今は夜も十一時すぎですが、不図ねる前にすこしこれをかきはじめました。私の手紙はあまりいつも長篇故これは短篇にしようと思っているのだけれど、果してうまく行くや否や? そして字も少しぱらりと書こうと思うのです。
 夜の八時頃実にいい気持でお風呂につかってポーとしていたら、あっちこっちのラジオが急におぞましき音でオニワー何とか、何とか何とかワーッと鳴りたてたのでびっくりして耳を立てたら、それは、どこかで年男が節分の豆まきをしているのを中継しているのでした。何だか馬鹿らしく滑稽で私はお湯の中で笑い出したけれど、今年の豆撒きにはイギリスとかアメリカの領事
前へ 次へ
全42ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング