た。
 てっちゃんも相変らずねんばりとかまえて悠々して居る模様です。弟がお母さんと上京してどこかにつとめている由。てっちゃんのおくさんの体がよくなくてね。光井の叔父上も相変らず、かっちゃん[自注4]のお嫁入りはもう二三年のばす由です。このかっちゃんと、私は虹ヶ浜へ昨年の一月行きました。それは冬の海で松林が私に多くの想像を刺戟しました。あの松林に月がさしたらどうであろうかと。そして、あなたのかりていらしたという家[自注5]を眺め。
 そちらで着物はもう冬着ではむさくるしいでしょうか、まだ袷《あわせ》は早いかしら、夜具も、うすいのをこしらえてお送りいたしましょう、夜具は五月に入ってからでもよかろうと思います。スエ子のハガキ御覧になりましたか? では又。御元気で。

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[自注4]かっちゃん――顕治の従妹。
[自注5]あなたのかりていらしたという家――顕治が大学一年の夏そこで暮した。
[#ここで字下げ終わり]

 四月十一日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 上落合より(封書)〕

 第十一信 四月十一日の夜。
 きょうは、何と暖だったでしょう! きのうあなたの四月五日づけの手紙を
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