窓でいたって風当りがつよく、下落合の丘陵から吹きつける風で、いつかは障子がふっ飛んで手摺を越し下の往来へ落ちた。今は下で、茶ダンスの横に、坐る大きい三つ引出しの机がある。そこでこれを書いて居ります)
『中央公論』の「乳房」は伏字がなくてうれしゅうございます。出来、不出来は当人には今のところ不明です。一生懸命にとにかく体当りでやったから却ってそんな風なのでしょう。重吉という男の細君のひろ子という女の活動の間での心持を主として描いたのです。一昨年の秋百枚近く書いてあった、あれをすっかり書き直し、いわば全く別ものがそこから生れ出したという工合です。
 これを書いて、いいことをしたと思います。これを書き直し、ものにしないうちは外のものにとりかかれぬ気持の順序でしたから。――
 この小説をかいたので、『社会評論』に半年契約で書いている女の生活についての感想は四月やすみました。きょうこの手紙を終ってからその支度。
 ところで、きょうは風のひどいほかに、私は落付かない心持がして居ります。ほかでもない、あなたに御入用の本のことについて裁判長にやっと明日面会できる始末だから。先週は祝日があって、一日おき
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