私たちに似合った家です。家賃三十円也。井戸だし、少し不便だし、だからその位なのであろうという定評です。
達治さん[自注11]がこの一月二十日頃に入営することを叔父上がお話しになりましたか? その前に出来たらあなたに会われたらいいと思ったし(そちらにいつ頃まわるか私には見当もつかなかったから)母様の御出京の話もあったので、とりいそいで家をもったわけでした。あなたは御存知ないことだけれども、一昨年の十月末から国男夫婦[自注12]がケイオー病院のそばに家をもち、私はずっとその二階で暮して居りました。その家は、林町の母[自注13]が本年六月十三日に肺のエソでなくなり、(私が臨終の僅か五分前に辛うじて淀橋[自注14]からかえって会う事が出来た後、)引はらって、国男夫婦は林町にかえりました。私は夏ごろはずっと歩けなかったし、心臓衰弱で毎日注射していたし、すぐに家をもつことは出来ず林町の二階の長四畳へテーブルを持ちこんで、十月以後は、文学的な感想や評論のようなものを相当沢山かき半年前よりは発展をとげたということで一般に好評でした。現代文化社というところで私の最近の評論感想集[自注15]を出すそうで
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