てていると机のある方からやって来てカサコソ枕元をかけている。シーッ! 力をこめておどかしたら、鼠はあんまりあわてて、おそらく鼻面を向けていた方へいきなり飛んだらそこには私の顔があり、こんどは鼠より私がびっくりしてしまった。鼠は夜目が見えるだろうのに!
○ああそれから、天気の曇った日には、私がよろこんで仕事をしている恰好を御想像下さい。この家はそんなに日が当るのです。天気がいいと私の眼がつかれる位。いねちゃんのところもそうです。先の家の近所へ越して。曇。烈風、障子の鳴る音にまじり凧《たこ》のうなりの響がする。二階のゆれるような感じ。大変寒く、手が赤くて、きたない。
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[自注24]クロームの腕時計――一九三二年の春、あのとき宮本は自分の時計が粗末で不正確でこまると言って、わたしの時計と交換した。手くびにつける紐だけはそのままで。わたしの時計であって宮本に使われていた時計は、宮本の検挙されたとき無くなった[#「無くなった」に傍点]。
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底本:「宮本百合子全集 第十九巻」新日本出版社
1979(昭和54)年2月20日初版発行
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