がこれをかくのは、ゆうべも考えてね、一時に=一晩にかいてしまおうとすると、一晩まるでつぶし、而も何だかかきたいことを落すので、時々ぽつぽつと書きためたのを、こんどはお目にかけようかと考えたのです。さっき古本やの話に、この頃ショーロホフの小説などなかなか出るようになった由。スエ子は母がなくなってから糖尿病がひどくなって来て、この頃はアコウディオンを中止で、食餌養生をして居ります。相当意志をつよくやっているのは感心ですが、可哀そうに。私は彼女の音楽について大した幻想は抱いて居りません。
 これまでの手紙で忘れていたこと=(手紙拾遺集のようになるけれども)去年の九月から、母が生前書いたものを、主として日記ですが、すっかり栄さんに読めるように書き写して貰い、一周忌までに本にして記念にする手順で居ります。実によく書いて居る。父と結婚――私もまだ生れなかった頃の日記には二人で散歩した事や毎日毎日じゃがいもを食べていたことなど、ちゃんと鵞堂流の筆蹟で書いてあって、私はその頃の生活状態、母のもっていた教養いろいろなものをおもしろく感じます。後年に至ると、もっと歴史的に興味があります。今更そのようなこと
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