国宝
宮本百合子

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(例)[#地付き]〔一九四九年三月〕
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 法隆寺が焼けて、あの見ごとな壁画が修理もきかないほどひどくなってしまった。されに新聞記事を見たとき、わたしの胸のなかで大きななみがくずれた感じがした。有名であったり、国宝であったりしても美しくない美術品もある。法隆寺の壁画はそのゆたかさ、端厳さに人間らしい立派さがあふれていて、わたしたちの心のなかに親愛と尊敬をもって生きていた。あの壁画が感動的であるのは、画面の素晴らしさが、わたしたちに人間のもち得る美感の高さ、深さを、まざまざとした生命感で直感させることであった。法隆寺の火事で壁画が滅茶滅茶にされたことは、人々に何となし生命あるものの蒙った虐待を感じさせ、ショックは大きく波紋をひろげた。更にこの法隆寺の火事からは、思いがけない毒まんじゅうがころげ出し、責任者である僧は、留置場でくびをつりそこなった。古代壁画がはがれてむき出された法隆寺現代図絵である。また、あらゆる面にはびこっている日本の封建的な官僚主義やセクト主義が、法
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