を奪い取りました。一枚の赤紙は、幾千万の日本の家庭を片はじから破壊しました。婦人が男にかわって今日までつくしてきた生活上の努力は言葉には云いつくせません。
 工業・農業における社会生産を最低のレベルにおいてでもどうやら保ちつづけたのは勤労婦人の献身でした。一九四〇年以後の日本のすべての炭坑には婦人が入坑し、過重な労役に服してきました。若い勤労婦人は最も危険・有害なあらゆる生産部門においてさえ活動しました。
 しかも、日本の軍事的権力によって特別な保護をうけていた企業家たちは、生産の大半を婦人の労力によって行いながら、勤労婦人の福祉施設、母性保護設備、災害予防施設は行わずにきたのです。
 今日、日本の組織労働者は四百万人あります。その半数は婦人労働者であるのは、上にのべたような事情からみても実に当然なことです。
 旧支配権力が無条件降伏した一九四五年八月以後、第一回の総選挙が行われ、婦人代議士は三十九名という多数が当選しました。又憲法が改正され、民法改正草案が示され労働基準法が審議されつつあります。旧い封建日本はようよう近代の民主的な人民の生活を持とうとしているようにみえます。社会のあら
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