なければならない立場になりました。
 わたしたちの誰が、またもう一度、しかもあの恐ろしい経験に幾十倍かする新しい戦禍に見まわれたいと思うでしょう。どんな母が、妻が、そして愛人たちが、またふたたび愛する息子、大事な父親、将来の夫を、どこか知れない山の奥、ジャングルの泥沼に死なせてよいと思っているでしょう。
 戦争というものは、平和を愛し、勤勉に働いて家庭生活を愛している人民の一生を、じかに、無惨に、破壊するものです。そうだからこそ、こんにち、ラジオや出版物で戦争を挑発し、戦争ヒステリーに感染させようとしている者どもは、この地球のどこかに、この次の戦争に利用されていい民族、あるいは人民の群が存在してでもいるかのような云いかたをしています。自分のところは無傷で、よその国を軍事基地化し、そこの人民を傭兵として、それで戦争をやるのだ、という風に。――
 しかし、みなさま。
 この地球のどこに、他国の軍事基地となるために存在して来た国があるでしょう。
 そして、みなさま。
 傭兵とされるために、辛苦とたたかってその子を生み育てている母が、世界のどこの国にいるでしょうか。
 この訴えこそ、日本の人民
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