て身内に軋《きし》むのを感じる。――
 調べの始ったのは午前十一時前であった。今は夕方の六時だ。自分は憎しみによって一層根気づよくなり腰をおとさず揉み合っている。日本共産党をどう考えるかというようなことである。
 自分は、日本共産党は飽くまでも一つの政党であると云った。合法、非合法はその国の状態によるのであって、決して共産党そのものの本質的属性ではない。清水は、「日本共産党は非合法の秘密結社でアリマシテ云々」と他の誰かの調書にあるとおり、口授を承認させようとするのである。又、「働く婦人」が共産党の宣伝の道具であるというデマゴギーをも押しつけようとした。清水は綴じあわせたケイ紙を見せ、
「しかし、これを御覧なさい、『大衆の友』はちゃんとそうであると言明していますよ」
「そう云った人があるのなら、なお更口真似は出来ない。『働く婦人』の投書だとかそのほか書いてあることが、あなた方から見て共産党の云うところと一致しているのなら、それは、それだけ共産党というものが大衆の真の考え、要求をとりあげていると云うことになります。元は、共産党にあるのではなく、大衆の実際の生活とそこから浸み出す要求にあるの
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