れ、廊下の隅に眠っていた自分は鼻の穴がムズムズするような埃りをかぶって目を醒した。
 酔っぱらいは保護室へぶちこまれてからも、
「僕ァ……ずつ[#「ずつ」に傍点]に、ずつ[#「ずつ」に傍点]に口惜しいです。僕ァこんなところで……僕ァダダ大学生です!」
 声を出して咽《むせ》び泣いている。
「五月蠅《うるせ》え野郎だナ。寝ねえか!」
 眼の大きい与太者がドス声でどやしつけている。
「ねます! ねますッ。僕ァ……口惜しいです。僕ァ……ウ、ウ、ウ……」
 第二房でも眼をさまし、鈍い光に照らされ半裸体の男でつまっている狭い檻の内部がざわつき出した。
「何だ、メソメソしてやがって! のしちゃえ、のしちゃエ!」
 看守は騒ぎをよそに黒い外套を頭からすっぽり引きかぶって、テーブルの上に突っぷしている。
 物も云わず拳固で殴りつける音が続けざまにした。暫くしずまったと思うと、
「アッ! いけねえ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
 とび上るような声が保護室で起った。
「仕様がねじゃねえか。オイ、オイ、そっち向いた、そっち向いた」
「旦那! 旦那! あけてやって下さい!」
「旦那すんませんがあけて下さい
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