役所風なヴァリエーションを感ずる。表通りは固めて、裏はふつうという。――
 書籍の※[#丸付き公、109−18]を原稿料によってきめるとき、現象的にみれば、高い原稿料を基準にするほど企業上有利であろうから、もしかすれば一般の原稿料はあがる、ということになるかもしれない。けれども、そうして高い本が出ると本屋との関係にかかわっているばかりでなく、文学の世界にじかにかかわって来ている。作家の実感にかかわって来ている。そして、日本に、民主的な文学ということをいうならば、その文学の問題にかかわっているのである。
 日本の近代史は、思えば、畳まれた提灯のようだと思う。ヨーロッパが三百年五百年とかかってその一輪、一区切りずつ動いて来たものが、短く明治以来の八十年にたたみこまれてしまっている。畳みめのせんさくがこの頃やっとはじめられて、ひだの深さの間に近代文学の自我、主体の確立その他の問題が詮議されている。一方に、こうして、先ず用紙割当のための民主的な委員会を作ることは考えずに、原価基準風に、原稿料基準の※[#丸付き公、110−7]書籍をこしらえようとするような文化の非自立性が進行している。しかもこの
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