思をする。
 そんな処は、やっぱり男と違う。
 この間に、買って来たインクももう少しになったから今年のうちに買って置いて来年から、新らしいのをつかいたい気もするし、そのほか、細ま細ましたものも、なろう事なら神田あたりに行って買って来たい。
 そのほか、どうでも、行かなければならない処も一軒や二軒ではない。
 そう思うと、眠ってすごした今日の午前中がまことにもったいない。
 母が居ないので外へ出るわけにもならず、静かなのを幸、何か書いたり、読んだりして居る。
 配膳室の箱の中に、今朝中にもって来た「おかちん」がまっ白い体をよこたえて居る。
 家中が割合に、かなり大きくなったものばかりなのでそうお正月をまち遠がるものもない。
 でも私は、今年あんまり、病気をしたり妹をなくしたりして、いやな事ばかりつづきまして、十六は前やくだなんかと云う話をきいたので今年に別れるのはつらくない。
 どっかから、お歳暮に福寿草と、雪割草の盆景をもって来た。
 生れて始めて雪割草を見た。
 大変可愛らしい花だ。
 弟の「羽根たたき」の、のどやかな音に耳をかたむけながら雑誌の表紙を、やたらに新らしい絵は何だか私に分らないと思って見て居る。



底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
   1986(昭和61)年3月20日初版発行
※1914(大正3)年12月28日執筆の習作です。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2008年2月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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