対して作家はどう戦うべきか。この問題である。
 これはソヴェト同盟にとって謂わば歴史的な課題といえる。今日にはじまったことではない。一九一七年十月、革命の第一の銃声が轟いた、その瞬間から、今日まで持続している問題だ。その頃は、コルニーロフの反革命軍や、チェッコ・スロヴァキアの反革命軍が、南方ロシアを掠めようとした。アメリカと日本とがシベリアで帝国主義の利益のための火事場どろぼうをやろうとした。ソヴェト同盟の勤労階級は西から東からおそいかかって来る反革命軍を追っぱらった。
 が、列国の陰謀は、これではすまなかった。
 一九二一年に起ったクロンシュタットの赤色海軍兵の局部的な暴動は、ソヴェト同盟国内戦後の饑饉救援という名目でアメリカから、妙な連中が入り込んだ。アメリカ毛布、アメリカ製ビスケットにかこつけたからくりが、この暴動の種であったということを今日知らぬ労働者はない。
 五ヵ年計画まではソヴェト唯一の炭坑区だったドンバスで、一九二八年大陰謀が発覚した。一九三五年になるとドンバスからは一塊の石炭さえ産出しないように技術的な破壊が企てられていた。それは誰の仕業であったろうか? ドンバスに外国資本が投資されていた帝政時代から働いていたドンバスのドイツ人技師が中心であった。
 一九二九年八月、東支鉄道の問題で、中国の帝国主義者たちを突ついたのはどの国だ? フランスと結托している反動的なポーランドがワルソーのソヴェト大使館爆破をやりかけたのは、どういう云いがかりをつけるためであったろうか。ソヴェト同盟の大衆は時に応じ、事情に従い、階級的な国際関係についての経験をかさねながら、それらと闘争しつづけて来たのであった。
 大衆はその組織をハッキリ理解している。プロレタリアの国ソヴェト同盟の根本的な外交方針は、平和であり、それぞれの国の大衆を犠牲とする戦争に決して自分から立ち入ったり、挑発したりしないということを。戦争で、ムザムザ若い命を大砲、毒ガスの餌じきにされるのは誰だろうか?
 世界平和を守るという不動の方針と展望の上に腰を据え、平和のための実力を充実させるためにソヴェトのプロレタリア・農民は五ヵ年計画の達成に精を出している。どう難癖をつけようとも、失業はなくなる。勤労者の賃銀は上る。労働時間は七時間から六時間何分というところまで縮小された。そして全生産は重工業をふくめて資本主義国の一九二九年来の経済恐慌とは反対に、ジリジリジリジリせりあがりつつある。
 右からは二千五百万人の失業者を含む勤労階級の攻勢に押され、左に彼等の敵として聳えるソヴェト同盟に圧され各国のブルジョア支配者たちは、死物狂いになって来た。
 中国をケシかけ、ポーランドを操るだけでは我慢出来なくなった列国は、一九三〇年の初めローマ法王を先頭にして、反ソヴェト十字軍を起してドッと攻めかけようとした。その口実はこうだった。「ソヴェト同盟で宗教の自由が奪われているのは人類の正義にそむく、ボルシェヴィキの手から哀れなソヴェトの人民を解放してやらなければならない」と。
 この噂が伝わったとき、ソヴェト同盟の勤労大衆はみんな思わず笑った。資本主義国の支配者たちが俺達をどう解放しようと云うのか? もしほんとにソヴェトの人民を解放しようとするなら、先ず何よりいま自分たちがやっている反ソ・カンパニアをやめさえすればいいんだ。が、段々笑いごとではなくなって来た。
 雪のあるモスクワの辻々に大砲を指揮する法王の絵入りポスターが貼られた。
 ソヴェト同盟を守れ!
 同じポスターは、映画館の壁の上にある。
 ソヴェト同盟を守れ!
 銀行のベンチから見える赤いプラカートの上に。ワロフスキー通りの作家クラブのひろい階段の上に同じポスターがあった。
『プラウダ』や『イズヴェスチア』は勿論であった。『労働者新聞』にもピオニェールのための『ピオニェールスカヤ・プラウダ』にも、この反ソヴェト・カンパニアに対する批判がのった。プロレタリア詩人たちは、種々様々な詩で。作家たちは諷刺的短篇や論文でソヴェトの守りのために動員された。
 文学新聞が、多勢のソヴェト作家にあてて、反ソヴェト・カンパニアに対する感想を求めた時、みんなは殆んど異口同音に答えた。
「われわれは今ペンをとって、世界のプロレタリア文学建設のために闘っている。だが、若し必要な時が来れば、階級のために、いつでもこのペンを銃と持ちかえよう!」
 一九三〇年三月二十四日、七十五万人の勤労者がモスクワでローマ旧教運動反対デモをやった。プロレタリア作家もこの示威に参加し、作家クラブではこの問題についての特別講演会が持たれた。プロレタリア作家たちは、この問題を段々科学的に考えはじめた。
 プロレタリア作家は階級文化の前衛としてもとより、いざという時はペンを銃と持
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