いのだ。
 文学における諷刺も同様なのは云うをまたない。諷刺が諷刺で自己満足してその基礎が「赤紫島」におけるように間違った理解の上に立てられている時、どっちから見たって、正当な意味で、プロレタリアの諷刺でないのは知れている。つまりブルガーコフは才能はあるけれどもソヴェト同盟の社会主義社会の建設と世界の労働階級解放運動に対して同情的でない態度をもつものだということを否めない。
 上演目録詮衡委員会は、一つの自己批判の表現としてこの戯曲の上演を許可したが、ソヴェト同盟の勤労大衆はだまっていなくなった。カーメルヌイ劇場は一月余上演して「赤紫島」はひっこめた。
 一九三〇年の秋から帝国主義国のファッショ化に対しソヴェト演劇上の帝国主義侵略戦争反対、宗教排撃の主題は目立ってふえた。だが、諷刺的に扱うにしろこの点に深い注意を払われている。世界の帝国主義者、ファシストの組織、侵略戦争をあばきっぱなしでは足りない。
 ソヴェト同盟及世界の勤労大衆はそれに対して何を支持し守らねばならないのか。「ソヴェト同盟、ソヴェト中国を守れ!」強く、全面的にこの大切な点が会得されなければ甲斐がない。芸術的効果をそこまで持って行くために、ソヴェト同盟のプロレタリア芸術家たちは大童《おおわらわ》だ。
 ところで、問題は展開する。
 この帝国主義の侵略の危機、及びファッシズムとの闘争は、果してソヴェト同盟の大衆、彼等の文化の前衛としてのプロレタリア芸術家たちだけに限られた必要、或は負うべき任務だろうか?
 断然そうではない。
 各国の帝国主義者たちが、それぞれの方角と方法でソヴェト同盟破壊のためのカンパニアを精力的に起さずにはいられないほど、それぞれの国内での情勢が切迫して来ている。
 資本主義国内の勤労大衆、革命的労働者、芸術家は一様に、多くの犠牲に堪えつつ勇敢にプロレタリア・農民の解放と階級的文化確立のために闘っている。
 何故われわれは世界の同志として互に手を握り、現実的な組織によって共同の敵と闘わないのか? ソヴェト同盟モスクワにある革命文学国際局がこう考えた。
 ドイツへ、チェッコ・スロヴァキアへ、イギリスへ、ハンガリーへ、日本へ! 世界革命文学の第二回国際会議への召集状は発せられた。
 第十三回革命記念日の数日前、一九三〇年十一月一日の朝、モスクワの白露バルチック線停車場は鳴り響く音楽と数百の人々が熱心に歌うインターナショナルの歌声で震えた。各国からの代表、歓び勇んでやって来たプロレタリア作家たちの到着だ。みんなは、みんなの母国語で歌った。が、モスクワの初冬の空気をツン裂いて、
「ああインターナショナル」
と歌われたとき、あらゆる国語の差別は消え全く一団の燃える声となって八方に響き渡った。
 第二回革命作家国際会議がモスクワでもたれず、ハリコフ市で行われたのも、五ヵ年計画第三年目のはじめの記念的な出来ごとにふさわしい。ハリコフ市はウクライナ共和国の首府だ。十一月の氷雨がちのモスクワ市よりこの時節にはハリコフ市の方が気候がいいばかりではない。ドンバス炭坑区を近くに持ち、大国営農場、機械工場をもち五ヵ年計画とともにソヴェト同盟の南方地域では屈指の重工業、農業の生産中心地となった。
 ハリコフ市を中心とするウクライナはソヴェト同盟のプロレタリア文学とも縁が深い。ショーロホフの「静かなドン」はドン地方のコサックの階級闘争史だ。フールマノフの「赤色親衛隊」もウクライナ地方が背景だ。映画「大地」はウクライナの豊饒な自然なしには創られなかった。
 美術の方面でもウクライナは多勢の優秀なソヴェト木版画家を出している。一九三〇年の春はウィーンその他でウクライナ美術展覧会をやった。
 このウクライナ地方が革命までどんな扱いをうけていたかと云えば、大ロシアの支配者たちによって半植民地とされていた。ウクライナ地方の自国語で書くことは許されず、軍隊の中でさえ「ハホール」と呼んで侮辱的扱いをうけた。
 社会主義の社会で民族は真の意味で自立し、新しい生産と文化とが結びつきながら高揚し、調和しあうものとして動きはじめている。ハリコフ市はそういう点から一つの新しい民族首都である。ここを選んで国際的な革命作家の会議が行われたことは輝かしい。
 会議は十一月六日から十五日まで続いた。二十二人の資本主義国、植民地、半植民地から革命的作家が集った。
 代表によって各国におけるプロレタリア文学運動についての詳細な報告がされ、批判された。そして、革命的作家は益々切迫するブルジョア経済の行き詰りとともにファッショ化する権力の文化抑圧と如何に闘うべきか。これも亦各国の事情を参照して決議された。日本からは、松山、永田という二人の同志が出席した。
(ハリコフ会議における日本についての決議は『ナップ』一九三
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