畦が消えて、そこに赤旗をかかげた農業機械ステーションを中心とする集団農場が現われた。
 重工業の発展はソヴェトの尨大な野を統制ある農業生産場、工業原料の生産場とかえつつある。農村の活溌な社会主義的発達はとりもなおさず都会の重軽工業を敏活に運転させる調帯だ。都会から農村へ、農村から都会へ。――СССРの地図は、搾取すべき殖民地をこの地球のどの隅にも持っていないという点だけで一九一七年以来既に一つの輝きであった。今そこは、豊富な天然資源を百パーセント社会主義生産に活用して、世界唯一つの社会主義国家の威力を資本主義に対して確立しようとしているのである。
 だから自覚あるソヴェトの勤労者は勿論、十一歳のピオニェールさえ知っている。五ヵ年計画の達成は、ただ彼等の財布へ七一パーセント増した賃銀をもち来すに止まらないことを。それは現在四千万人近いプロレタリアートを失業につき落して餓えさせている世界資本主義に対する共産主義の断然たる勝利を意味するのであることを。ソヴェト同盟の歴史にとって、いや、人類の全体の歴史にとって画時代的なこの五ヵ年計画完成のために、ソヴェトでは一九二九年来日常生活の愉快な実際的立てなおしがいろいろ行われた。
 第一、暦を組みかえた。聖書をもって派遣された魂の仲買人である僧侶たちに麻酔をかけられる教会・神を批判したソヴェト・プロレタリアートに「日曜日」は何を意味するであろう。要するに、七日目に一度廻ってくる休養日ではないか? では、例えばソヴェトじゅうの工場と役所とが日曜日だというと一斉に休業して、用のある者はしまったガラス戸越しに机と電話、磨かれた機械は見るが、そこで呼びかけるべき人間の影も無いという状態は、果して能率増進的であろうか? 心理学の実験は、人間が七日間同じ精神の緊張度と活溌な神経活動では働き通せないという事実を示している。五日に一遍休暇日をとって、二交代の工場は三交代に、「間断なき週間」として働こうではないか。「間断なき週間制」は一九二九年の秋から実施された。
 暦を組みなおして、各職場にわり当てられた五ヵ年計画第一年第一期の生産経済計画《プロフィンプラン》完成に着手したが、職場全体の気はそう単純に理想的には揃わない。五ヵ年計画の革命的意味を理解する精力的なプロレタリアートは各々の職場で能率増進の篤志労働団「突撃隊《ウダールニク》」を組織した。
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