っと南側を大廻りせず、そこから真直にイランの陣に向って降り始めた。四辺目の届く範囲に哨兵はいなかった。彼はもう、一歩も無駄足はしたくない心の状態にあったのだ。
 ルスタムは、体を反らせて平均を保ち高地の半分以上降りきった。時々蹴落された礫が砂まじりの泥と一緒に弾んでゆき、下の方で微かな音を立てた。もう夜は黎明に向ったと見え、高地の中腹から見晴らす広い空の紺黒い色も星の輝きもほのかな軟かみを湛えて来た。
 丁度彼がもう少しで高地を降り切ろうとする時であった。不意に一つの黒い影が、彼の横手から現われた。影は、ルスタムを認めると、ぎょっとしたように止った。ルスタムも思わず足を停めた。が、彼は、相当の距離が二人の間に在るのを知ると、またずんずん前進し始めた。影は、草をさわさわ、わけ進んで来た。白い纏布が互に見えるところへ来ると、先方から、一声、何かツラン語で云いかけた。まだほんの少年の音声である。ルスタムは如何ようにでも解釈される合図の積りで、右手をあげ、声の主に向って一両度ふった。足では矢張り歩きつづけながら。すると先方は、もう一遍先と同じ文句を繰返し、ルスタムの行手を遮るようにして前面に廻
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