びた服装を眺めた。
「えらく煽ったと見えるの――」
何か云いかけそうにしてやめ、ルスタムは広間に入り、自分のいた場所にギーウを坐らせた。侍僕等は、ギーウのために、手を濯《すす》ぐものと、新たな酒肴とを運んだ。
二十三
六十七歳のルスタムは、ギーウの不時の来訪を、言葉に現せない悦びで迎えた。彼は、ギーウの好む果物酒を命じて貯蔵所から持ち出させた。疲れた躯の居心地よいようにと、自分の汚点《しみ》のあらわれた手で座褥の彼方此方を叩いた。そして、愉しげに傍からギーウが見事に盃を乾す様子を眺めた。
ルスタムは、この頃、何方かといえば寥しい日を送っていた。季節は狩猟の時季を過ぎてしまった。辺鄙な城まで訪ねて来る物好きもない。内房もさほど楽しいところでもなかった。青年時代からひどく近頃まで遠征から遠征にと転々していた彼は、家庭の生活というものに悠くり親しむ暇がなかった。それが、こうして城に落付き、老年の慰安や静かな輝きを平安な日常の些事の裡に見出そうとする境遇になって見ると、ルスタムは、今迄まるで頓着しなかった深い一つの物足りなさ、寂寥さを身辺に感じた。それは、城中に、対等
前へ
次へ
全143ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング