所を教えてくれてもない。スーラーブは、父の名を知らなかった時、それさえ解ったら、どんなにさっぱり、心強いことだろうと思い込んでいた。ところが、事実は、正反対になった。まるで想像も、しなかった辛さが心に生れた。それは、偉大な戦士としての父に対する限りない尊敬、愛、帰服の心とともに、ここに切りはなされてぽっつり生きなければならない自身を、ひどく詰らなく、無意味に感じるという苦しさなのである。スーラーブは、昨日迄の生活を、無意義極まるものとして、考えずにはいられなかった。若し、何かの見どころがあれば、それは、ただ今後の生れ更った自分の生活に何かの足しになるものであったという理由にすぎない。彼の若々しい熱意や、憧憬に燃る心は、あのルスタムを父と知ってから、再び、元の眠ったような生活には思っただけでも堪えなかった。どうかして、ルスタムの子にふさわしい生き方がしたい。父と倶にあれば、たとい自分が末の末の数ならない一人の息子であったとしても、前途には、もっと希望と、男に生れた甲斐のある約束があった筈だ。
 現在のままの境遇では、父に会うという一事さえ、容易に果せない。小さいツラン属領の城番で、獣しか
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