ん深い水底からでも浮上って来るような、憂鬱な気持で目を醒した。彼は、枕に頭をつけたまま瞳を動かして四辺を見た。馬毛織の懸布や、研いだ武器が、いつも見なれた場所に、見なれた姿でかかっているのが、妙に物足りなく寥しい心持を起させる。
疲れていたので、幾時間かぐっすり眠ったのに、目が覚めて見ると何処にも熟睡で心を癒やされた爽やかさがなく、依然として、昨日と今日とは、きっちり、動きのとれないかたさで心持の上に結びついている。
僅の間でも眠れたのが却て不思議な心持さえする。珍らしく、スーラーブは、目を醒してから後暫く床の上に横わったまま、まじまじと朝日の輝く室内の有様を眺め、やがて真面目すぎる眼つきで褥《しとね》を離れた。侍僕が、気勢をききつけ水と盤とを持って入って来た。
手と顔とを浄め食事に向うと、シャラフシャーが入って来た。彼はスーラーブと向い合う敷物の上に坐り、種々な業務の打合せをする今朝、スーラーブは、まるで心が内に捕われた、無頓着な風で、シャラフシャーが述べる馬の毛刈りについて聞いた。彼は、もうそろそろ馬の毛刈りをせずばなるまいが、もう二三度|霰《あられ》がすぎてからがよかろうと
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