かたについての指示まで与えている。著者が、心からのおくりものとして、人間の進歩の歴史を愛し知識の明るさを愛するあらゆる人々に、事物の正しい理解の方法をつたえようとしている、そのあらわれの一つと思える。
「ミケルアンジェロの修業・モデルと思想」というところを読んだものは、歴史家である著者がこの大芸術家の識見を正しくつたえつつ、自身の芸術に対する良識と感性によって、おのずから今日の芸術が、特に今一度とりあげて考え直さねばならない芸術上の諸課題にも触れているのを痛感するであろう。例えば題材とテーマとの問題などにふれて。自然というものの感じかた、裸体の歴史性、モデルと思想との相互の関係などを語っている部分は深い示唆をもっている。
中年から以後、ミケルアンジェロの作品がつねに未完成にのこされた、それについてロマン・ロランでさえ個人的に性格の分裂という風に見たりしているのを正してこの著者が「悲壮にも挫折した歴史急転の速度を追って追い抜こうとして、そこにいたるところに残した未完成である」と云っている言葉は、まことに余韻浅からぬものと云うべきであろう。
「ミケルアンジェロ」は「現代の人」の一人によっ
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