たちの世紀の真と善と美とがありえないだろう。
一九四五年の五月、地球は神々しい人間の歓呼の声にどよめいた。新聞は、それをナチズムとファシズムの完全な敗北という見出しで伝えた。世紀のよろこび、幸福、美と詩との本質は、その歓呼のうちにききとられたと思う。一言につづめていえば、私たちのこの世紀こそは、大衆とその理性の勝利、民主の世紀であることが、心から肯けたのであった。十九世紀に大芸術家、科学者、政治家を輩出させた社会の創造的可能性は、その矛盾の深まるにつれてしだいに萎靡して、二十世紀前半は、ほとんどあらゆる分野においてその解説者、末流、傍系的才能しか発芽させえなかった。十九世紀は、その興隆する資本主義社会の可能性で、偉大な人間才能を開花させたのであったが、いまやそろそろ地球をみたす人間社会により広汎な人間性を解放する民主の形態が出来て、新しい世紀の本質的に一歩発展し前進した精華が輝きだそうとしている。真に新らしい社会と文化の章がはじめられようとしている。うたの主題は、三つの民主主義と名づけられる。なぜならば、それが、現世紀の詩と美とのよりかかることのできないテーマであるから。私たちの世
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