は、なにか人間らしいゆたかな詩情が欠けている。やさしい愛と慰藉とに欠けている。その心情的な飢渇がいやされなければ、頭脳的にわかったといっても、若い命を傾けつくして生きてゆきにくい。そういう声があるのである。
さらに、複雑な一群の人々の場合がある。今日、自分たちが麗わしい精神の純朴さで歴史の発展的面に従いきれないのが、一つのひねくれであり、日本の野蛮によって刻みつけられた傷であるのは、よくわかっている。しかし、そのひねくれによって自ら苦悩し、その傷の痛みを感じながら、そこまでなんとかして伸びようと試みている一群のあるのも、日本の現実である。この正道さは、今日の現実の中で、いいかげんな民主主義便乗者よりも正義をもつものである。そのひねくれの存在権は、世代的なものとして主張されているのである。
これらは、すべて非常に心理的である。それらが心理的であるということに問題を生じるのは、これらの心理的な現象をとく力は、窮極においてその心理の枠内にはありえないのだという事実を、承服しようとしないところにある。個々の人が個々の心理に固執している傾きがきつすぎる。その心理によりすがって、手ばなさないこ
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