工合に作成されたものか、一昨日(三月七日)には憲法改正草案を発表するところまでもち越して来ている。
私たち七千万の人民は、自分たちの毎日の現実のひどい有様と、この無責任で親切気のない政府の不思議な居据り状態とを見較べて、しんから、このままで生活はどうなって行くのだろうかと思いはじめている。
そもそも、インフレーションの原因は厖大極まる軍事費のおかげである。当時の代議士たちは、議会の白い建物の中で、一人のこらず夢のように巨額な軍事予算に賛成の手をあげて来たのであった。
国民経済は全くうちこわされ、各家庭の経済は、ひどいやりくりももうこれぎりという際まで来た。モラトリアムが、インフレ防止の非常措置として布かれた。モラトリアムは物価との睨み合わせで、はじめて本当にものを云うのである。ところが、三月に入ってから、あらゆる物価は騰《あ》げられた。配給の米、醤油、そういう基本になる生活物資が約三倍になった。省線の二十銭区間は六十銭となり、四十銭で勤められた同じ距離が、一円二十銭かかるようになった。電車・バスも、うっかり乗れないものになって来た。電燈料、ガス代、水道料、これらもひどく高くなる。
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