して自分たちでこそつくり出して行かなければならない。結婚生活における人間としての互の理解と協力の大切さは、私たちの生活の現実がそういうものだからこそいわれるのであると思う。幸福な結婚生活というものの真の姿は、その夫婦がどんな不幸にも困難にもめぐり合わないで生涯をすごしたなどという、ほとんど実際にあり得ない空想のうちにさぐらるべきではなくて、おびただしいそれぞれの困難な辛苦の間で二人がどんなに互の評価と慰めと励しとで生活をおしすすめて行ったかという、その動きの真実の中にこそある。
 ひところの日本にあった、結婚はしたくはないが、子供は欲しいという表現は、ジュヌヴィエヴが、俗人でていさいやの父親というものに代表されているフランス社会の保守の習俗にぶっつけて、その面皮をはぐことで人間の真実の生活の顔を見ようと欲した激烈な感情とは、またおのずから質の異ったものであったと思える。
 女性として男性に結ばれてゆく自然さを自分に肯定しようとする積極の面と、そのことが習俗的にもたらす形体が与える負担のうけがい難さとの間に生じる感情の分裂が、結婚はしたくないが子供は欲しいといういっそう矛盾した表現に托さ
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