花させたが、各部門の発達のテンポを見ると、文学、演劇が一番早くある水準に達した。音楽、美術はそれよりおくれたという実際の経験がある。騒音の激しい、人のざわめき、声々の多い場所で働いている者は、あるいは文学の愛好者となる率が多いのではないかとも思われる。(ソヴェト同盟で文学が新しい芸術建設の先鋒となったことは、もちろん、人々をして記録させ、ペンをとって書かせずにおかなかった社会生活の複雑な大変動、大感動が中心的な動機となっていたのであるが)
 日本詩歌のリズムの研究が、メトロノームの搏音をつかっての心理学的実験によってなされたことは、この方面において若い心理学徒の多くの業績が期待され得ることを意味すると思う。
 文学に関する面でも、近頃文章学は従来の作家に縁の遠かった修辞学とは異なった科学的、実験的立場で、文学的作品の解剖、類別などを試みている。丁度谷崎潤一郎の「春琴抄」などが世間の注目をひき、文章の古典復興物語調流行がきざしかけた頃、なにかの雑誌で、谷崎と志賀との文章を対比解剖し、二人の文章にあらわれている名詞、動詞の多少、形容詞、副詞の性質を分析し、志賀直哉を客観的描写の作家とし、谷
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