られたのであった。
 こういう公私の逆立ちは、軍需生産で儲けた人々の全生活を支配した。食糧問題、それにからむ土地問題、住宅問題、失業問題、道徳の頽廃の諸相。それは、引つづいて日本の社会を混乱させる公私逆立ちの形として現われている。支配者たちは、人民の公器たる政府の実力で、これらの大課題を、どのように公的に処置しつつあるだろうか。私たちの毎日の現実に立って答えるならば、政府は、愕くほど私的になっている。政府そのものの命脈を保つこと、その成員の姑息な差しかえ、G・H・Qとの汲々たる妥協策。今日猶まことに壮健である財閥の七変化的存在への助力。戦時利得税、財産税についての解説一つでも真面目に聴いたらば、人民は、曖昧な日本的薄笑いを口辺に浮べてはいないと思う。貿易局の頭に三井財閥を坐らせている政府。銀行、大企業が、9/10を所有している戦時公債を、財産税でとりあげた人民の金で償還しようとしている政府。そういう政府が、財閥的私的権力でないと云うものは恐らくないであろう。目前の食糧問題という全くの公的課題を、忍耐ふかき日本の人民は、日に日に枯渇して来る各自のいとささやかな財布と、道徳的堕落を伴う要領
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