の腐敗が、忽ち、婦人参政の新しい地域まで悪質な性病のような急スピードで蔓延しつつある。戦争犯罪によって頭株をとられた進歩党が、築地の待合に共産党をのぞく各派の主だつ婦人たちをよんで、出席した者に、進歩党内の重要なポストを与える談合を行った。生産面における勤労階級の婦人の永年に亙る犠牲によって、日本の婦人参政権はもたらされたものである。一億の人口を今日、七千万と数える、その三千万の再び還ることない生命によってあがなわれたものである。日本の重大な運命にかかわるとき、上流婦人が、反動的であることさえ人民の発展の阻害であるのに、なおその上、彼らが自分らの無智を知らず、厚顔になりきった社交性につり出されて、男でさえ、まともな暮しをする者は、行かないところである待合で、待合政治の真似ごとをくりかえすとは、云うに言葉がない。彼女たちの、土台、公私逆立った生活環境は、その足で立って働きとおして来た人民の辛棒づよい婦人たちとは、根底から異っている。利害も根底から異っている。わたしたち日本の女は、女の世界も男の世界と同じで、一からげに同じ日本の女と云って安心していられない実体をもっていることを知らなくてはならない。
 公的な、人民的社会的なものを、偽りなく公的な本質におくこと、そして、私的なものは、その社会福祉の真に公的なもののために必要な抑制を蒙ること。この自明の道理こそ、民主の基本であると思う。わたしたちは、社会の公器が公器であることを欲する。公的な社会諸問題が、前進する日本の公的観点に立って、公的に処置されることを求める。日本人民の解放は、社会的な公私の逆立ちという、不自然な状態の排除から出発すると云っても、云いすぎではないであろう。
[#地付き]〔一九四六年二・三月〕



底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年6月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:「文芸春秋」
   1946(昭和21)年2・3月合併号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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