られたのであった。
こういう公私の逆立ちは、軍需生産で儲けた人々の全生活を支配した。食糧問題、それにからむ土地問題、住宅問題、失業問題、道徳の頽廃の諸相。それは、引つづいて日本の社会を混乱させる公私逆立ちの形として現われている。支配者たちは、人民の公器たる政府の実力で、これらの大課題を、どのように公的に処置しつつあるだろうか。私たちの毎日の現実に立って答えるならば、政府は、愕くほど私的になっている。政府そのものの命脈を保つこと、その成員の姑息な差しかえ、G・H・Qとの汲々たる妥協策。今日猶まことに壮健である財閥の七変化的存在への助力。戦時利得税、財産税についての解説一つでも真面目に聴いたらば、人民は、曖昧な日本的薄笑いを口辺に浮べてはいないと思う。貿易局の頭に三井財閥を坐らせている政府。銀行、大企業が、9/10を所有している戦時公債を、財産税でとりあげた人民の金で償還しようとしている政府。そういう政府が、財閥的私的権力でないと云うものは恐らくないであろう。目前の食糧問題という全くの公的課題を、忍耐ふかき日本の人民は、日に日に枯渇して来る各自のいとささやかな財布と、道徳的堕落を伴う要領、才覚によって、やりくっているのである。
日本が民主的自主的政治の能力を示して、世界に、自立的民族として存続する可能性の十分あることを示すか、或は、蒙昧な反動国として、民主的世界によって飽くまで監視されなければならない立場に置かれるか。次回の総選挙は、そういう意味で極めて重大、深甚な意義を日本の将来の可能性に向ってもっている。今日、人民生活を建て直すために、民主主義はどうしても確立されなければならない。世界的諸関係の中に日本をおき、公の観点から洞察し、心から祖国を愛する者ならば、日本の民主化が如何に重大であるか、千万の言葉にまさる重さを理解しなければならない。
政党が、公のものであるならば、自党の得票という私的目的のために、日本人民のおくれた層、封建の陰ふかい地べたから一票でも多くかき集めようと、わざと封建の暗さにおもねることがどんなに誤ったことか、売国的な行為であるかを人民は、明白に知らなければならない。嘗て、「愛国者」たちは何をしたか。答えはただ一つである。
私どもは、彼等が愛する日本の進路を誤らせるために山積した罪悪を決して忘れることはないのである。
公私逆立った既成政党
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