なった外国紳士の姿である。さもなければあんまり早くアメリカ風になったという題でうつされている植民地的ハイカラーな日本娘のスナップがある。それはサン・アクメの写真にとられて外国の諸新聞や雑誌にのせられている。
 これらの現象を見くらべたとき、すべての真面目なひとの心に切実な疑問の声がおこらずにはいまいと思う。わたしたち日本の文化はどこにあるのか、と。

          四

 ほんとに、わたしたちにとって親愛で創造的で身についた日本の文化は、どこにあるというのだろう。
 思いめぐらすと、われわれがこれまで、文化について考える態度のなかには重大な欠点があった。それぞれの時代の社会事情につれて、次々に生れて来るいろいろな現象に対して、その現象だけとりあげ、いわゆる文化の問題としてとやかくいって来た。そして、一つ一つの現象の根本によこたわっている社会事情にまでつっこんでふれることは、社会問題、経済、政治問題の領域とされる常識があった。文化の問題は、そのため、いつも手ぎれいに表面だけを撫ですぎて、したがって一種の文字上のおしゃべりに終るかたむきがつよかった。
 いま、わたしたちは、文化そのものに対して一つの新しい態度をきめる時期に来ていると思う。社会事情の推移につれて生れ消える現象をおっかけて批判したり要望してはおっつかない段階にたっている。わたしたち日本の実直な市民として、一生の大部分を家事についやす主婦として、日常の生活に、教育に、読書や娯楽に、どういう文化を求めているかということを、はっきり自分で知らなければならないと思う。そして、求めている文化は、どういう社会生活の上に可能であるかという点についても具体的につかんでゆかなければならないと思う。
 きょうの文化上の欲求の一つとして、現代の日本の経済事情と、その経済事情にどう処してゆくかという政治の方法に無関係なものがあるだろうか。主婦が、わずかのひまを見つけて読みたい本は、一般の物価上りで三冊が一冊にされつつある。その一冊にさらに五パーセントの取引税がかかる。子供たちに買ってやる絵本にもその五パーセントはついて来る。国会でも問題になったこのたちのわるい大衆課税は、政府としてやむをえないこととして押しきった。理由は天文学的数字の予算をまかなえないからであり、そのなかで小さくない部分を占めている終戦処理費というものを出さなければならないからとされている。
 この処理費というものはどういう風にしてどこへつかわれるものなのだろう。戦時中の軍備施設を、二度とつかえないようにこわすだけに、そんな金がかかるのだろうか。ポツダム宣言を受諾して武装放棄をした日本は、どういう口実でも日本としてまた武装を行う理由はもっていないはずである。わたしたち日本の婦人の大部分は戦争を欲していないのだ。分別のある人民の大部分が、この上の惨禍を歓迎しようとはしていない。
 きょうこそ、日本のわたしたちは、自分たちの求めているものを、はっきり自覚しなければならないと思う。わたしたちの求めているのが民族の平和と自立であり、生活の安定と人間らしい文化のよろこびである以上、自分たちの目標から目をはなさず、希望を実現させるあらゆる可能のためにわたしたちに出来るところから尽力してゆかなければうそだと思う。
 これまで文化は、生活にゆとりのある階層の占有にまかされて来た。侵略戦争がはじめられて、それまでの平和と自由をのぞむ文化の本質が邪魔になりはじめたとき、谷川徹三氏の有名な文化平衡論が出た。日本に、少数の人の占有する高い文化があり、一方にいわゆる講談社文化がはびこっていることはまちがっている。文化は平衡をもたなければならない。おくれた低い文化はたかまり、狭い高い文化はもっと一般化されなければならないというのが谷川氏の論旨であった。ところが、当時の情報局文化統制は、講談社、主婦之友を極端な軍国主義に動員することで好戦意識を宣伝していたから、谷川氏の平衡論はその現実のなかで、日本のより高い理性をもつ文化能力を抹殺する理論づけになった。戦争について意見をもつ文化は、少数者の高すぎる文化として圧殺された。
 日本が降伏して、日本の民主化がいわれはじめた。新しい日本の社会生活へ生れかわろうとする人民の真実な希望がうかがわれるらしく見えた。しかし三年たったいま、わたしたちのぐるりにある光景はなんだろう。三年たつうちに、民主化されようとする波をかいくぐって生きのびて来た旧い権力者たちは、日本の封建性というものをさかて[#「さかて」に傍点]にとって、日本の民主化を威脅しはじめている。一九四六年の日本でこそ、封建的なものは、民主的なものに反する性質をもっていることが一般の感情に明瞭にうけとられていたし、対立する本質の言葉としてつかわれてもいた
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