何と低い新緑の茂み! 背の低い樹々が枝から枝へ連って山々、谿々を埋めている。寒い土地の初夏という紛れない感じで感歎した。
 青島は、なかなか有名だ。大抵の人が知っていた、是非行って見ろと云う。去年両親が旅行した時もわざわざ宮崎へ泊って見物した由、帰っての話題に相当大きい役割を持っていた。
 私共はそもそも初めの予定では鹿児島の方へは廻らない積りだった。廻ったらとても旅費が足りない。ところが、別府が危ぶんでいた通り思わしくなかったので、それではと鹿児島廻りで長崎へ行こうとたったのであった。どうせ大淀を通るなら、一寸汽車を工面して見るのも悪くない。四時間ばかり余裕を見て、大淀駅から青島行自動車に乗った。豊後から日向に入ると、景色が変った。豊後の、海沿いに島があったり、入江があったり、実に所謂いい景色にちんまりしていたのが、日向にかかると、風景がずっと放胆で平原的になった。広々した畑、関西風な村を抜けて自動車が青島へ向い駛るにつれ、私は段々愉快で堪らなくなって来た。別府、臼杵、経て来た町にないおおどかさが日向という国には満ちている。日向と書く文字に偽りなく、ここは明るい。平明に、こだわりなく
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