太ければ太いだけ梢を高く高く冲している。それらが房々青葉をつけて輝いている。いかにも軽やかに、明るい。大分臼杵という町は、昔大友宗麟の城下で、切支丹渡来時代、セミナリオなどあったという古い処だが、そこに、野上彌生子さんの生家が在る。臼杵川の中州に、別荘があって、今度御好意でそこに御厄介になったが、その別荘が茶室ごのみでなかなかよかった。臼杵川は日向灘とつながって潮の満干が極めて著しい。臼杵へ出入りする船の便宜を計って、川と中島との間に橋というものは一つもない。軽舟に棹さして悠暢に別荘への往復をするのだが、楓樹の多いこの庭が、ついた日の暮方夕立に濡れて何ともいえない風情であった。植込まれた楓が、さびてこそおれ、その細そりした九州の楓だから座敷に坐って、蟹が這い出した飛石、苔むした根がたからずっと数多の幹々を見透す感じ、若葉のかげに一種独特な明快さに充ちている。茶室などのことを私は何も知らないが東京や京都で茶室ごのみというと、清々しくはあるが余り暗い茶室。暗い、木下暗、なんだかそういう連想がある。光線が暗いという上心持の晦渋さをも幾分含む。それには、植込の樹にも大分関係あるらしいことが九州
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