て、子供たちは黙って合点をしたまま、道をあけてくれた。
いかにも農家の裏山へ通じると云うおもむきの、苔のついた石段をのぼると低い切りどおし道になった。温暖な地方は共通なものと見えてその小道にしげっている羊歯の生え工合などが伊豆の山道を思いおこさせた。季節であればこのこみちにもりんどうの花が咲いたりするだろうか。
農家のよこ道を通りすぎたりして、人目がくれのその小道は、いつか前方になだらかにひろがる斜面を見おろすところにでた。四国の樹らしく、幹の軽く高いところに梢をひろげた楓がたくさん植わり、桜もある広い芝生へ出た。若い女のひとが三人芝生の隅にかたまっておひるをたべている。背後にどっしりとした御守殿風の建物があった。大玄関にまばらな人かげが見える。それが、琴平の公会堂なのであった。
藪かげのこみちを歩きながら、この俗っぽい、商人の薄情な琴平に、こういう裏みちもある、ということをなつかしく感じた。慾とくをはなれた年月の間この町にも苔のついた石段が、穏和な生活の道としてあることに安らぎを感じた。
数年前、弟が出征したとき、母は、武運長久の願をかけに、山口からわざわざ琴平詣りをした。五
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