られ、今の殿が寝殿に御うつりになったと云うはなしでござりまするが」京から来る旅商人などにきかれてこの土地の一番年よりかぶの爺はこうこたえるのがつねで有った。
 二人の女君もうとしごろ弟君も、比まれに姿も心も美くしく生い立ったので「よいよめ良いむこなりともさがさねばならず……」あとにのこった若い殿の後見をしながら段々年頃になって行く大切の三人の片はつけずばならず、末の長い弟君にも出来るだけ出世をさせたしと年をとってよけいに苦労性になった後室はそのことばっかりを苦にやんで居る。
「いっそ一思いに三人を京にのぼせようか」
とも思って見られたけれども「久しい間こんなところに暮して居て時にもおくれただろうから若ものに恥かしい思をさせるのも可哀そうだし」と思って心の内では「弟君には彼の紫の君でもめあわせて居候の兄弟には常盤の君と自分の見て置いた若くて、美くしい女房を、そして子でも出来たらこの子を京の身よりにたのんで育ててもらえば」と心にきめて、たるんだような心持で居ながらも、その淋しさを忘れようために花、紅葉、などの宴は、いつも晴々と行って居られるので有る。
 祭にも出られず、出仕も出来ない若い男
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